AIでピンバッジデザインは作れる?製造経験20年以上の立場から見た可能性と課題

最近、当社ではYouTube・Instagram・X(旧Twitter)で、
【写真をもとにAIで作成したピンバッジデザイン】を毎日のように投稿しています。
ピンバッジ・イメージ画像

「なぜAIで作ったデザインを投稿しているのか?」

その理由は単純にAIが作ったデザインを紹介したいからではありません。
実は、AIが作ったデザインには、【ピンバッジを実際に製作するためには、修正が必要なポイントが数多く残っている】からです。

そして、その「どこを修正すれば実際に作れるデザインになるのか」を、20年以上ピンバッジ製作に携わってきた立場から紹介したいという思いがあります。

AIとの出会いは「エナメルピンを作る」というボタンから始まった。

ある日、AI画像生成サービスを触っていると、「エナメルピンを作る」という項目を見つけました。

「今のAIなら、かなり完成度の高いピンバッジデザインが作れるのではないか」

そんな軽い気持ちで試してみたのですが、出来上がった画像を見て驚きました。

確かに一見するとピンバッジのように見えます。

しかし、実際の製造という視点で見ると、

* 色と色の境界に必要なメッキラインが存在しない・不足している
* 色の区切りが曖昧
* メッキラインが途中で消えている
* 色入れできるスペースが確保されていない
* 線が細すぎて金型で再現できない

など、「エナメルピン風」の画像であって、当社で製作している【プレスソフトエナメルピンバッジ】とは全く別物でした。

一般の方から見れば十分ピンバッジに見えるかもしれません。

しかし、製造現場の目で見ると「このままでは作れない」という部分が非常に多かったのです。

AIに教えるのではなく、AIと一緒に学んでいった

そこから私は、AIへの指示文(プロンプト)を少しずつ改善していきました。

例えば、

* 色と色の境界には必ずメッキラインを入れること
* メッキラインには最低限必要な太さがあること
* 色を流し込むためには一定以上の面積が必要なこと
* メッキライン同士の間隔が狭すぎると製造できないこと
* プレスソフトエナメル特有の凹凸感を表現すること
       【デザインの作り方のページへ】

など、実際の製造条件を細かくプロンプトへ反映させていきました。

何度も画像を生成し、

「ここはダメ」
「ここは惜しい」
「この指示を追加しよう」
考え込む

と繰り返していくうちに、

【画像をAIへドラッグ&ドロップし、プロンプトを貼り付けるだけで、ある程度プレスソフトエナメルらしいデザインを生成できるレベル】まで近づいてきました。

それでもAIだけでは完成しない

しかし、それでも完成ではありません。
現在のAIは本当に驚くほど進化しています。
数年前では考えられないほど自然で美しい画像を作ります。

それでも実際に製造するという視点では、

* メッキラインが途中で消えている
* 色同士が直接接してしまっている
* 極端に細かい模様になっている
* 色面積が小さすぎる
* 金型では再現できない細さになっている

といった問題がまだ残っています。

つまり、
【AIは「デザイン案」を作ることは非常に得意ですが、「実際に製造できる設計図」を作ることはまだ難しい】
というのが、私自身の率直な感想です。

当社のSNSでは、AIが生成した画像を完成したデザインとして紹介するのではなく、実際の製作にはまだ修正が必要な状態のデザインを、あえて公開しています。

そのため、当社のSNSでは、
「完成したデザイン」
ではなく、
【まだ修正が必要なデザインをあえて公開しています。】

そして、
「ここはメッキラインが必要です。」
「この部分は細かすぎるので修正が必要です。」
「このままでは色入れができません。」

など、コメントや説明文で実際の製造目線から解説しています。

AIがどこまで出来るようになったのか。
そして、まだ人間がどこを修正しているのか。
それを知っていただくことも、製造会社として価値のある情報発信だと思っています。

UV印刷の進化は本当にすごい

ここ数年で、もう一つ大きく進化した技術があります。

それが【UV印刷】です。

以前は、アクリルキーホルダーやアクリルスタンドなど、平らな素材へのUV印刷が一般的でした。
アクリルキーホルダー

しかし現在では、
【凹凸のある金属製ピンバッジにもUV印刷ができるようになっています。】
これは本当にすごい技術です。

従来のプレスソフトエナメルでは、
色と色の境界には必ず金属のメッキラインが必要でした。
ピンバッジの断面図

しかしUV印刷では、
メッキラインを印刷せず、凹凸のある金属へ直接細かな模様を印刷できるため、
今まででは再現できなかった非常に細かいデザインまで表現できるようになりました。

しかも、見た目はプレスソフトエナメルのような質感にも仕上げることができます。
kimono-pins
技術の進歩には本当に驚かされます。

20年以上前には考えられなかった表現方法

今では当たり前になりつつありますが、
20年以上前は選択肢が非常に限られていました。
細かいロゴやグラデーションを表現したい場合は、

* 全面印刷(オフセット印刷シルク印刷)で割り切るしかありませんでした。

特に社章では、
擬七宝にシルク印刷を組み合わせた仕様が高級感があり、多く採用されていました。

一方で、全面印刷だけの社章は少なく、「印刷だけでは少し安っぽく見えてしまう」という印象を持たれることも多かったように思います。

印刷だけなのに擬七宝に見せる技術

そのため当時は、印刷仕様のピンバッジにも金属製品らしい高級感を持たせるため、さまざまな工夫が行われていました。

例えば、印刷仕様でありながら、

* 中には、通常より厚い金属材料を使用し、外周の縁取りをできるだけ細く設計したうえで、メッキを何重にも重ねて金属部分に厚みを持たせ、遠目には擬七宝にしか見えないように仕上げたピンバッジもありました。

* エッチング風のデザインに見せる
* メッキを何重にもかけて厚みを持たせる
* 印刷面よりメッキが少し高くなるよう調整する
* その上からエポキシ樹脂を盛る

こうすることで、
一見するとエッチングや擬七宝に見えるピンバッジが数多く作られるようになりました。

中には、

材料自体を厚くし、
外周のメッキラインをギリギリまで細くしメッキを太らせ、
遠目では完全に擬七宝にしか見えないようなピンバッジもありました。

当時の私は、
「ここまで細かいデザインを擬七宝で作れるようになったのか!」
と本気で驚きました。

しかし実際に製品を使い、
コインなどで表面を擦ってみると、
それは擬七宝ではなく、印刷仕様だったことがあります。

もちろん、これは品質が悪いという意味ではありません。
むしろ、印刷仕様でありながら擬七宝のように見せるための工夫と技術に、改めて感心しました。
私の中では冗談半分に、「擬七宝ではなく、擬擬七宝とでも呼ぶのかな(笑)」と思ったほどです。

それほど当時は、擬七宝の存在感が圧倒的だったのです。

官公庁でも印刷仕様が採用され始めた時代

私の記憶では、2003年前後、SARSが流行した頃だったと思います。

日本政府が観光誘致のために配布した「ようこそ○○」シリーズのピンバッジに、印刷仕様のピンバッジが採用されました。

それまでは、
官公庁のピンバッジと言えば、

* 擬七宝
* プレスソフトエナメル

が主流でした。

しかし、その頃を境に印刷仕様の採用が増え始め、
その後は世界的なスポーツイベントや博覧会などでも印刷仕様のピンバッジを見かける機会が増えていったように感じます。

もちろん、用途やデザインに応じて最適な製法を選ぶことが重要ですが、印刷技術が大きく評価され始めた転換点だったのではないかと思います。

時代が変わっても変わらないもの

その一方で、テーマパーク向けのピンバッジなどを見ると、
長い間、擬七宝へのこだわりを感じる製品が数多くありました。
近年ではプレスソフトエナメルを採用した製品も増え、時代の変化を感じます。
また、ピンバッジ文化を世界中へ広めたアメリカのメーカーやデザイナーの技術やこだわりには、今でも深い敬意を持っています。

印刷技術は少しずつ進化してきた

ピンバッジの製造方法は、一気に変わったわけではありません。

少しずつ、

* 擬七宝へのシルク印刷
* 擬七宝の上へのフルカラー印刷
* プレスソフトエナメルへのシルク印刷
* 凹凸面への印刷

というように、

出来ることが一つずつ増えてきました。

そして現在、

UV印刷によって、
ほぼ自由と言っていいほど細かなデザインまで表現できる時代になっています。

UV印刷は「邪道」なのか?

正直に言うと、
私は今でも少しだけ葛藤しています。

UV印刷なら、
凹凸のある金属にも自由に印刷できるため、
極端に言えば、
「デザインはどうにでもなってしまう」
とも言えます。

もちろん、それは技術として素晴らしいことです。
これまで諦めていた細かなイラストや写真表現も実現できるようになりました。

しかし一方で、
プレスソフトエナメルならではの
「メッキラインで色を区切り、金属の美しさを活かす」
という魅力とは少し違う方向の表現でもあります。

だからこそ私は、UV印刷を否定するつもりは全くありませんが、
プレスソフトエナメルらしさ」とは何かを考えることがあります。

当社の強みは「デザインを描くこと」ではなく「作れるデザインへ仕上げること」

当社はデザイン会社ではありません。
ゼロから魅力的なキャラクターやイラストを描く力はありません。
専属デザイナーが何人もいる会社でもありません。

しかし、
お客様が作られたデザインを、
【できるだけイメージを崩さずに、実際に製作できる形へ調整すること】には自信があります。

メッキラインをどこへ入れるか。
線幅を何ミリ確保するか。
色を少しだけ整理するか。
細かい模様をどこまで残せるか。

こうした一つひとつの判断は、20年以上積み重ねてきた経験があるからこそできる仕事だと思っています。

プロのデザイナー・イラストレーターへの尊敬

AIを毎日使うようになって、改めて感じたことがあります。

それは、

【プロのイラストレーターやピンバッジ専門デザイナーの方々は、本当にすごい】ということです。

シンプルなデザインなのに、多くの人の心を動かす。
かわいく、かっこよく、美しく見せる。

一方で、
非常に複雑なデザインであっても、
「これ、本当にピンバッジで作れるの?」
と思うほど緻密なのに、
実際には製造できるよう、絶妙なメッキラインや色面積を計算して描かれています。

まっさらな状態から、
製造方法まで考慮したデザインを作り上げる能力は、本当に素晴らしいと思います。

AIを使えば使うほど、
その技術力の高さを実感し、尊敬する気持ちは強くなるばかりです。

AIは便利。でも最後は人の経験が必要

AIはこれからもどんどん進化していくでしょう。
初回のイメージ提案やデザインの方向性を考えるには、これ以上ないほど便利なツールになると思います。

しかし現時点では、
「実際に製造できるピンバッジ」
に仕上げるためには、

やはり人間の経験や知識、そして細かな調整が欠かせません。
だからこそ、当社ではAIを否定するのではなく、積極的に活用しています。

そのうえで、AIではまだ難しい部分を人が補い、お客様が思い描いたイメージをできるだけ忠実に形にすることを大切にしています。

これからもSNSでは、AIが作ったデザインと、それを実際のプレスソフトエナメルとして製作するために必要な修正ポイントを紹介しながら、「AIでどこまでできるのか」「人の技術がどこで活きるのか」を分かりやすく発信していきたいと思います。

AIの便利さと、長年培ってきた人の経験。その両方を活かしながら、これからもより良いピンバッジづくりに取り組んでいきます。

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